おきなぐさ [作品に関すること]
賢治さんの作品には、「おきなぐさ」と題したものが2つあります。
一つは『春と修羅』にも収められている詩。
もう一つは童話です。
童話の「おきなぐさ」は、こんなふうに始まっています。
おきなぐさは、キンポウゲ科の多年草で学名はPulsatilla cernua。
賢治さんの時代にはそこかしこに自生していたことでしょう。
でも、今では環境の変化や乱獲のためにレッドデータブックで絶滅危惧植物Ⅱ類に指定されるほどに野生のものは数が減ってしまい、園芸店などで売られているのは栽培されたものです。
在来種のものは暗赤紫色の黒っぽい花を付けます。
園芸店などでは白や黄色の花のものも見かけますが、それはヨーロッパ原産のものだそうです。
こちらは我が家のおきなぐさです。
花は、「黒朱子ででもこしらへた変り型のコップのやうに見えます」。
一見、地味ですね・・・。
でも、「おきなぐさ」の中で「私」と「蟻」は、こんな会話を交わします。
蟻にはおきなぐさがどんなぐあいにみえるのでせうか・・・?
ちょっと試してみました。
こんなぐあいや、
こんなぐあい、
あるいはこんなぐあいにも見えるのでせうか?
賢治さんもきっと、こんなふうに花を日光にすかして見ていたのかもしれませんね。
誰でも思いつきそうで、なかなかできないことだと思います。
でも、こうして見方を変えることでまったく違ったふうに見えるとは、驚きです。
少し時間が経って、今は我が家のおきなぐさはこのようになっています。
白髪のおじいさんの風貌にかなり近づいてきました。
もう少ししたら、
といった感じになるでしょうか。
ちなみに「おきなぐさ」の花言葉には、「何も求めない」「背信の愛」「告げられぬ恋」などがあるそうです。
『春と修羅』に収められた詩「おきなぐさ」を書いた頃の賢治は、ある女性に恋をしていたという説があります【注】。
「ああ黒のしやつぽのかなしさ」というおきなぐさの花の形容には、もしかしたら何かそういう意味も込められているのかもしれませんね。
【注】 たとえば、澤口たまみ『宮澤賢治 愛のうた』(2010年、盛岡出版コミュニティー)。
(記:azalea)
一つは『春と修羅』にも収められている詩。
もう一つは童話です。
童話の「おきなぐさ」は、こんなふうに始まっています。
うずのしゅげを知ってゐますか。
うずのしゅげは、植物学ではおきなぐさと呼ばれますがおきなぐさといふ名は何だかあのやさしい若い花をあらはさないやうにおもひます。
そんならうずのしゅげとは何のことかと云はれても私にはわかったやうな亦わからないやうな気がします。
それはたとへば私どもの方でねこやなぎの花芽をべむべろと云ひますがそのべむべろが何のことかわかったやうなわからないやうな気がするのと全くおなじです。とにかくべむべろといふ語のひびきの中にあの柳の花芽の銀びろうどのこゝろもち、なめらかな春のはじめの光の工合が実にはっきり出てゐるやうに、うずのしゅげといふときはあの毛莨科のおきなぐさの黒朱子の花びら、青じろいやはり銀びろうどの刻みのある葉、それから6月のつやつや光る冠毛がみなはっきりと眼にうかびます。
おきなぐさは、キンポウゲ科の多年草で学名はPulsatilla cernua。
賢治さんの時代にはそこかしこに自生していたことでしょう。
でも、今では環境の変化や乱獲のためにレッドデータブックで絶滅危惧植物Ⅱ類に指定されるほどに野生のものは数が減ってしまい、園芸店などで売られているのは栽培されたものです。
在来種のものは暗赤紫色の黒っぽい花を付けます。
園芸店などでは白や黄色の花のものも見かけますが、それはヨーロッパ原産のものだそうです。
こちらは我が家のおきなぐさです。
花は、「黒朱子ででもこしらへた変り型のコップのやうに見えます」。
一見、地味ですね・・・。
でも、「おきなぐさ」の中で「私」と「蟻」は、こんな会話を交わします。
「おまえはうずのしゅげはすきかい、きらひかい。」
蟻は活撥に答えます。
「大すきです。誰だってあの人をきらひなものはありません。」
「けれどもあの花はまっ黒だよ。」
「いゝえ、黒く見えるときもそれはあります。けれどもまるで燃えあがってまっ赤な時もあります。」
「はてな、お前たちの眼にはそんな工合に見えるのかい。」
「いゝえ、お日さまの光の降る時なら誰にだってまっ赤に見えるだらうと思います。」
「さうさう。もうわかったよ。お前たちはいつでも花をすかして見るのだから。」
蟻にはおきなぐさがどんなぐあいにみえるのでせうか・・・?
ちょっと試してみました。
こんなぐあいや、
こんなぐあい、
あるいはこんなぐあいにも見えるのでせうか?
賢治さんもきっと、こんなふうに花を日光にすかして見ていたのかもしれませんね。
誰でも思いつきそうで、なかなかできないことだと思います。
でも、こうして見方を変えることでまったく違ったふうに見えるとは、驚きです。
少し時間が経って、今は我が家のおきなぐさはこのようになっています。
白髪のおじいさんの風貌にかなり近づいてきました。
もう少ししたら、
春の二つのうずのしゅげの花はすっかりふさふさした銀毛の房にかはっていました。野原のポプラの錫いろの葉をちらちらひるがへしふもとの草が青い黄金のかゞやきをあげますとその二つのうずのしゅげの銀毛の房はぷるぷるふるへて今にも飛び立ちさうでした。
といった感じになるでしょうか。
ちなみに「おきなぐさ」の花言葉には、「何も求めない」「背信の愛」「告げられぬ恋」などがあるそうです。
『春と修羅』に収められた詩「おきなぐさ」を書いた頃の賢治は、ある女性に恋をしていたという説があります【注】。
風はそらを吹き
そのなごりは草をふく
おきなぐさ冠毛の質直
松とくるみは宙に立ち
(どこのくるみの木にも
いまみな金のあかごがぶらさがる)
ああ黒のしやつぽのかなしさ
おきなぐさのはなをのせれば
幾きれうかぶ光酸の雲
「ああ黒のしやつぽのかなしさ」というおきなぐさの花の形容には、もしかしたら何かそういう意味も込められているのかもしれませんね。
【注】 たとえば、澤口たまみ『宮澤賢治 愛のうた』(2010年、盛岡出版コミュニティー)。
(記:azalea)
2011-05-02 07:35
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コメント(2)
すばらしい写真。胸がしーんとなりました。
おきなぐさのあるお庭、すてきですね。
賢治さんの心模様のようにせつないほどのうつくしさの五月です。
by にじ (2011-05-09 06:44)
ありがとうございます。ほめていただけて、試行錯誤して撮ったかいがあります。
我が家のおきなぐさも喜んでいることでしょう。
前に植木市で買ったおきなぐさは2年続けて咲いてくれたのですが、咲いたと思ったら豪雨でポロッと花が落ちてしまい、枯れてしまいました……。
今年のは無事に種ができたので、増えてくれるといいのですが(^^;)
by azalea (2011-05-09 07:18)